学校の食堂で、ある日前置きもなく友達から一言「志帆、Ironman 70.3一緒にやらない?」。Ironmanが何であるかも分からないのに、何かエキサイティングなことだろうという直感から「いいね、やろう!」と軽返事。その後よく聞いたらスイム1.9km、バイク90km、ラン21.1kmのトライアスロンのことではありませんか!しかもヨーロッパ出身の友達と参加するため、大会は日本国内ではなくオーストリア…
ランは趣味で以前からやっていてハーフマラソン・フルマラソンに出たことはあるものの、スイムは中学校の体育の授業以来経験なし、バイクはママチャリでさえ乗ったことがないというレベルでした。
[スイム練習]
8月末のIronman 70.3に向けて4月頃から徐々に練習を開始しました。初めに取り掛かったのは水泳です。25m泳いだだけで息が上がってしまい、本番では25mプールの76回ターン分(25m ×76 = 1900m)を泳ぐなど考えられませんでした。YouTubeの動画を見てはそれをプールで真似て、を繰り返しました。試行錯誤しながら、練習開始3週間後にようやく200m続けて泳げるようになり、それ以降は加速度的に泳げる長さが伸びていきました。非常にゆったりとしたペースではあるものの、6月下旬には1300m続けて泳げるようになり、スイムに対する不安が薄くなってきました。
[バイク練習]
しかし、次なる問題はバイクでした。6月下旬まで海外で学生として生活していたので、ロードバイクを購入して初めて乗ったのは7月でした。レース本番は8月26日。私の自転車経験は三輪車で止まっているのに、練習期間は2ヶ月もなかったのです。当たり前ですが、ロードバイクはサドルが高くタイヤが薄いので三輪車の安定感はありません。自転車を購入した日、バイクショップから家まで自走で帰ることができず、押して帰りました。 公園で自転車の乗り降りの練習、バランスをとる練習から始め、次に自動車道路をおそるおそる走行し始め、初めて荒川サイクリングロードに自走で行けた日は自分の成長に一人で感動してしまいました。その後は青トラのBike & Run練習で行った尾根幹に自主練で行ったりして本番のバイクコースのアップダウンに備えました。
[ラン練習]
ランは唯一以前からやっていたので何とかなると思っていた上、東京の7, 8月は暑すぎたのでほぼ練習しませんでした。本番と同じ21kmを1回だけ走った他には週に1回5kmを走った程度です。
[本番]
そうして迎えた本番。はるばる日本からオーストリアに飛んだからには絶対に完走したいという思いがありました。一番の大きな不安はバイク90kmを制限時間内に完走できるかでした。バイクは一番練習不足だった上、獲得標高1200m・最大勾配14%という初心者にはきついコースだったからです。自転車で少しでも余裕を持って走れるように、とにかくスイムとトランジションは遅れることなくこなそうと気合を入れてスタート位置につきました。
2秒ごとに4人がスタートするローリングスタートで、気付いた頃にはいつの間にか泳ぎ始めていました。オーストリアの水は東京に比べてかなり冷たいな、湖は海と違って水を飲んでしまってもしょっぱくないからいいな、ということを考えていたらスイムはあっという間に終わりました。
そしていよいよバイク。22~35kmまで坂道が続くコースだったので、初めの20kmでしっかり補給しようという計画でした。ただ自転車の片手運転は数日前に習得したばかり。片手を離してボトルを取り出したりジェルを飲んだりするたびに蛇行して、私を抜こうとしていく他の参加者に何度も「右に寄れ!!(海外なので右側通行です)」と怒鳴られました。1回目のエイドステーションでついにボトルをケージに入れそこなって落車しました。大した転倒ではなかったので気を取り直して漕ぎ始めるとすぐに坂道が現れました。そこであることに気が付きました。平坦の道ではかろうじて補給できたものの、坂道だと手を離すことができず補給がまったくできなかったのです。一番辛い坂道パートの13kmで一滴もドリンクを口にできないのかと意気消沈しながらも、足を動かし続ければいずれ坂道は終わると言い聞かせて登り続けました。ついに頂上に到着。まだバイクの半分とランが残っていましたが、すっかり完走した気分になって残りのバイクはオーストリアの素敵な山々を堪能していました。
バイクが終わってランへ。これからハーフマラソンが待っていると考えると気がおかしくなりそうでしたが、溺れる心配もなし・落車して怪我する心配もなし・パンクして一人道端でモノと格闘する心配もなしと考えると気が軽くなりました。周回コースだったので、一緒に参加している友達とすれ違うたびに声をかけあったりハイタッチしたり、終始落ち着いて楽しむことができました。バイク90kmの後のランに怖さがありましたが、実際は単独のハーフマラソンの方がキツかったです。ゴールが見えてくると達成感と安堵で自然と笑みがこぼれました。
Ironman 70.3は長かったような、短かったような。未知なものに挑む高揚感、それを抑えて平常心を取り戻そうとする理性、もう無理ではないかという自分の体力や精神力への疑心、そこで踏ん張ろうとするプライド、やっぱりできたじゃないかという達成感。さまざまな感情が頭の中を交錯した1日でした。
初トライアスロン大会がIronman 70.3で、海外で、しかも青トラ入会からレース日まで2ヶ月もないという無謀な挑戦でしたが、やる遂げることができて本当に良かったです。青トラで教えてくださったコーチ陣や、私の初歩的な質問にいつも丁寧に答えてくださり応援の言葉をかけていただいた青トラの皆さんに感謝いたします。今後はバイクを徹底的に練習してオリンピックディスタンスに挑戦したいです。片手運転をマスターしてどんな状況でも補給できるようにすることが私の必至の課題です。